水素・アンモニアとは

水素とは

水素(H2)は常温で無色・無臭の気体で、味やにおいもありません。ガスの中で最も軽く、可燃性ガスです。他の可燃性ガスとは異なり、炎は無色透明です。燃焼すると酸素と反応して水になるCO2を排出しない気体です。
水素は、水などのように他元素との化合物として地球上に多量に存在しますが、利用できる単体としては希薄です。近年、地中や海底など自然界で生成され、水素単体で存在していることも報告されています。

水素には色がある?

水素は無色ですが、製造方法によって、色別に区分されて呼ばれています(ただし、これは国際的に合意された明確な定義があるわけではありません)。主な水素の色分けは以下の通りです。

  • グレー水素:石炭や天然ガスを原料として製造された水素
  • ブルー水素:天然ガスを原料として製造された水素で、製造過程で排出されたCO2を回収・貯留技術(CCS)を採用することで、二酸化炭素排出量を削減したもの
  • グリーン水素:再生可能エネルギーを利用して、水の電気分解により製造されたCO2を排出しない水素
CCS:CO2を他の気体から分離・回収し、地下深くに貯留・圧入する技術
水素の呼び名(色)
(出典)資源エネルギー庁

アンモニアとは

アンモニア(NH3)は常温常圧では無色透明の気体で、水素(H)と窒素(N)で構成されています。特有の強い刺激臭があり、ほとんどが肥料の原料として使用されています。その他、メラミン樹脂や合成繊維といった化学製品の原料、衣類のシミ抜きなど、幅広い用途で活用され、世界で年間約2億トンが生産されています。

アンモニアは加圧・冷却により容易に液化できます。また、空気中に放出されると白煙となります。

世界全体でのアンモニアの用途
(出典)日本エネルギー経済研究所及びNEXANT(2012年)

水素・アンモニアの特徴

水素・アンモニアの安全性

水素は引火しやすい、爆発しやすい、と思われることもありますが、正しく扱えば安全に使用できます。「漏らさない」、「万一漏れてもすぐに漏れを検知して止める」、「適切に喚起を行い、漏れた水素はとどめない」という水素の取り扱い上の注意を守って正しく使えば、安全なエネルギーです。一方、アンモニアは「劇物」に指定されていますが、安全に利用する技術が確立されています。

なぜ今、水素やアンモニアが注目されているのか

水素・アンモニアは燃焼時にCO2や有害物質を排出しないため、環境にやさしいクリーンなエネルギーとして注目されています。鉄鋼や化学産業など、電化が難しい分野での脱炭素化を実現する上でも、重要な役割を果たすと期待されています。また、燃料電池に利用する方法も研究されています。

水素は化石燃料のみならず、太陽光や風力などの自然エネルギーを利用して、水からも製造できるため、資源に乏しい日本にとって、エネルギーの安全保障の向上につながる可能性があります。水素自体は使用時にCO2を排出しないクリーンなエネルギーですが、製造時に天然ガスを使用すればCO2を排出します。また、電気分解に必要な電気をつくる際に、化石燃料を使用すればCO2を排出します。これらの水素製造時に排出されるCO2をいかに減らすかが課題です。CO2CCS/CCUSで地中に埋めたり、再生可能エネルギーによる発電で電気分解を行ったりする取り組みが進められています。

アンモニアは、水素の「輸送媒体=キャリア」としても活用でき、水素に変換せずとも、そのまま燃料として利用可能です。すでに世界中でさまざまな用途で利用され、安全性に関する対策も整備されているため、既存インフラやサプライチェーンを活用でき、水素と比べて、安価に製造・利用できることが特長です。
このような背景から、大量輸送が難しい水素を、輸送技術の確立しているアンモニアのかたちに変換して輸送し、利用する場所で水素に戻すという手法が研究されています。

CCUS:分離・貯蔵したCO2を再利用し、燃料やプラスチックなどを生成したり、原油を回収する際に活用したりする技術

水素・アンモニアビジネスのバリューチェーン

化石燃料由来もしくは、再生可能エネルギーによる電力を用いて水素・アンモニアの生成を行い、水素は、圧縮もしくは液化して貯蔵するか、アンモニアなどの他の物質に変換して輸送します。今後はさらに発電、鉄鋼、モビリティといった分野で需要拡大が見込まれています。
アンモニアはそのまま燃料として燃やせるため、将来的には、アンモニアだけで発電することを視野に入れた技術開発が進められています。火力発電の石炭に混ぜて燃やして(混焼)、CO2の排出量を抑える実証実験も進んでいます。

水素・アンモニアのバリューチェーン

今後利用拡大が見込まれる水素の用途

利用先 利用方法 課題
電力
  • 火力発電の燃料として利用
  • 大規模な需要創出が可能(100万kWの水素専焼化力の年間水素使用量は燃料電池自動車233万台分に相当)
  • 天然ガスとの燃焼特性の違い
    (発熱量、燃焼速度、断熱火炎温度)
モビリティ
  • 先ずはトラックやバスへの利用が拡大し、その後一般自動車へも普及
  • 将来的には電化が難しい船舶での利用が期待される
  • 水素ステーションの拡充、コスト削減
  • 燃料電池自動車のコスト削減
鉄鋼
  • 鉄鉱石の還元に水素を使用
  • コスト
  • 従来の炭酸還元と等価にするには水素価格を7.7¢/Nm3-H2程度まで下げる必要がある

水素・アンモニアの現状と展望

水素製造事業、特にブルー水素の場合は、INPEXが持つ既存の天然ガスアセットを使用でき、上流事業(サブサーフェス・掘削)、LNG操業、輸送(海上およびパイプライン)で蓄積した当社の技術的強みを活用できます。しかし、技術的にもコスト的にも課題があるため、他社とも連携し、広く燃料として利用される環境を整えていく必要があります。
当社は先進的な取り組みにもチャレンジしており、天然ガスから水素を製造する際に排出されるCO2をCCSで削減するブルー水素の実証に向けて、新潟県柏崎市にプラントを建設しています。また、米国・テキサス州で低炭素アンモニアの商業生産を目指し、海外企業との共同プロジェクトを進めています。既存分野である石油・天然ガスの供給ルートやバリューチェーンなども活用し、需要側におけるエネルギー転換へ受容性を高めるなど、水素・アンモニア普及の取り組みを続けていきます。