DXビジョン
デジタル技術は、以前から石油・ガス業界に幅広く活用され、当社の事業もその恩恵にあずかってきました。近年は、最先端のデジタル技術により、さらに高度で高速な処理が可能になり、多様かつ大量のデータを活用した取組ができるようになっています。
INPEXは、我が国及び世界のエネルギー需要に応えつつ、2050年ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組んでいますが、デジタル技術の活用はそうした取り組みの重要な柱と位置づけています。
INPEX Vision 2035では、デジタル技術の徹底活用を通じて生産性向上を実現し、企業価値の向上に貢献することを目指しています。
このビジョンに沿って、当社に於けるDXの役割を「外部環境の変化に対処すべく、デジタルによる組織・社員・文化・マインドセットの社内革新を促し、業務高度化を主導する。先端デジタルテクノロジーを駆使して高度なビジネスプロセスを確立し、新しい価値を創造することで、競争優位性の構築を目指す。」というように定義しています。
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DX戦略
DX戦略は、中期経営計画・技術戦略に基づき、操業をデジタル化することにより、石油・天然ガス分野の強靭化・クリーン化に貢献し、生産性向上や省力化を実現することを目指しています。また基盤整備に向けた取り組みの中で、デジタルデータ基盤を整備し、デジタル技術の活用を加速させることで、効率化を図り、新たな価値創造を実現する方針を立てています。DX戦略は以下の5項目を重点的に取り組んでいます。
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1.事業効率化・自動化:複合デジタル技術により、事業の省人化・無人化及び操業・技術・管理業務の徹底的な効率化を推進する
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2.技術高度化:社内外データの有効活用・分析により、技術面での高度化を図る。
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3.脱炭素分野への転嫁:石油ガスE&Pに於けるデジタル技術を脱炭素分野(CCUS、水素・アンモニア、再エネ、メタネーションなど)に展開し、同分野の効率化・高度化を図る。
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4.データ管理・分析、基盤強化:技術データ基盤・技術スタディツールを整備し、技術業務を効果的に支える。
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5.デジタル人材育成:全社のデジタル力を強化し、社内の変革・業務高度化を促す。
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DX推進体制
DX関連の取組みを強力に推進するため、技術本部のDXグループが中心となり、課題起点でのデジタル施策を遂行します。
事業部や国内外拠点と連携し、各現場が直面する具体的な課題に対して、データに基づく全体最適の視点で具体的なデジタル施策を企画・立案します。また、各部門・拠点間での知見共有や課題解決に向けた協働を促進していきます。
個々のデジタル案件は、DXグループと担当事業本部から構成されるプロジェクトチームあるいはタスクフォースが組成され、実証実験(PoC)から本格導入まで一貫して推進しています。重要案件については、複数部門長で構成されるステアリングコミッティを設置し、経営視点での判断と支援を行っています。
デジタル人材育成
デジタル人材育成は重要な取り組みの一つであり、デジタル人材に求める知識や能力を定義し、実践的な研修プログラムを通じ、新たな企業価値や顧客体験を創出するデジタル人材の育成を目指しています。
当社では、デジタル人材に求められる2つのスキルを定義し、基礎と専門のレベル別に研修プログラムを実施しています。
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1.DX案件を企画・推進する人材
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2.高度データ活用・管理・分析をする人材
全社員のデジタルリテラシーの底上げを目的として、基礎レベルのプログラミング講座を実施し、全社向けポータルによるデジタル施策に関する情報発信を行っています。また、専門人材の育成を目的として、専門レベルのデータサイエンス講座を実施しています。今後も、全社的なデジタルリテラシー教育、プログラミング講座やデータサイエンティスト講座等の研修を継続して実施する予定です。
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DX取組み事例
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省人化・無人化、ロボット
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中央処理施設(CPF)デジタル可視化プロジェクト
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作業許可の電子化アプリケーション(Permit Plus)
省人化・無人化、ロボット
安全の確保、さらには生産・操業の競争力の維持・向上を目指し、当社既存生産施設に於いて複数のDX施策を総合的に実施する試みに取り組んでいます。以下の主要3つのコンセプトを掲げ、全面的な展開に先立ち、スモールスケールのパイロットプロジェクトを2022年春から推進しています。
コンセプト
- 統合オペレーションセンター
- コラボセンターやAI監視等支援で複数プラントの統合監視
- スマートファシリティ
- 現場作業の自動化レベル向上、多様センシングでのセンターとの情報連携
- プラントデジタル基盤
- 各種通信を実現し、業務プロセスを支える連携複数システム基盤
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2022年からの検討や検証につづき2025年に向けて、統合オペレーションセンターの機能強化を進めています。具体的には、複数のプラント間での遠隔監視・統合監視システムを構築し、実運用への導入を開始しました。
また、運転管理の高度化として以下の取り組みを推進しています。
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防爆認証済みのデジタル機器を活用した効率的な巡回点検の実施
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巡回点検、無線センサーとプラントデータ管理システムと連携した運転記録の自動化
これらのデジタル技術の導入により、業務プロセスの改善と運用効率の向上を実現しています。
また、インフラ設備の効率的な点検を目指し、ロボット技術を活用した生産設備の検査の実証検証を進めています。さらに、AI機能付きIoTカメラによる設備監視システムの導入検証も実施しており、異常の早期発見や効率的な巡回点検の実現に向けた取り組みを展開しています。
中央処理施設(CPF)デジタル可視化プロジェクト
オーストラリアのイクシスLNGプロジェクトにおいて、中央処理施設(CPF)のデジタルツインを活用した可視化プロジェクトを展開しています。ドローン、先進的なLIDARと写真測量スキャン技術を活用し、施設の計画、実行、管理方法を革新的に改善しています。この取り組みにより、安全性の向上、作業効率の改善、オフショアチームの作業計画の支援を実現しています。従来、技術者や計画担当者は、遠隔施設へのアクセスが限られ、作業の範囲設定や検証のために現場訪問を繰り返す必要がありましたが、このツールにより、施設の仮想空間でのウォークスルーが可能となり、作業計画の質の向上、安全性の強化、オフショア施設での所要時間の大幅な削減を実現しています。
作業許可の電子化アプリケーション(Permit Plus)
オーストラリアのイクシスLNGプロジェクトにおいて、現場の危険な作業の許可と管理を電子化し、現場作業を変革するアプリケーション「Permit Plus」を開発しました。Operations部門とTechnology部門が共同で開発したこのアプリケーションによって、作業許可プロセスを効率化し、生産性と効率性を向上させています。現場作業者中心の設計、直感的な使いやすさ、堅牢なインフラストラクチャ、ガバナンスへの準拠を基本として構築されており、作業者に効果的でかつ安全性の高いツールを提供しています。このアプリケーションの主な利点として、現場での直接的な作業許可管理による移動時間とダウンタイムの削減、ミーティングからタスクへのシームレスな移行による生産性の向上、リアルタイム更新による許可追跡と安全プロトコルの遵守の改善が挙げられます。
クラウドデータプラットフォーム
技術データ基盤AI-landによる探鉱開発データ管理
技術データ基盤「AI-land(アイランド)」は、INPEXクラウド上で技術データを管理するシステムとして、2021年より運用されています。この基盤は、地下評価に欠かせない地震探査データや坑井データを安全に保管するクラウドストレージと地理情報システム(GIS:Geographic Information System)です。2024年には、過去の地下評価まで対象を拡大して知見共有を促進する方策の検討、蓄積した情報や知見を高度に活用するためのデータサイエンス機能の導入テストを実施し、2025年からの本導入を進めています。これにより、蓄積された知見を組織的に活用する情報基盤を整備し、新しいエネルギー企業への変革に貢献しています。
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ネットゼロカーボン社会の実現を目指す社会情勢は、石油ガス会社にとってさらなる事業拡大のための新たな課題を生む一方で、新たな機会を創出しました。こうした中、AI-landの坑井や地震探査のマップやデータは、CCSやCO2排出源データのマップと重ね合わせて地理空間で可視化することにより、ネットゼロカーボンの取り組みにつながる新たなシナジーの創出に貢献しています。
データガバナンスの強化は、デジタルプラットフォームの強固な基盤を構築するための重要な課題でした。データ管理手順は、データが属人的に個別に管理されないように変更する必要がありました。技術データ管理の原則とプロセスを定義し、全社共通のルールでデータ管理を一元化することで、高いレベルのセキュリティとアクセシビリティを実現し、データ品質を維持することが容易になりました。
当社でも2020年からリモートワークが本格開始されましたが、AI-landはクラウド技術を活用して、従業員が自宅から技術データにアクセスするための安全で簡素な方法を提供しています。