貯留候補地の評価
地球温暖化の抑制に貢献する技術のひとつとして、化石燃料の利用などによって発生した二酸化炭素(CO2)を回収して地下に圧入するCO2回収・貯留技術(Carbon dioxide Capture and Storage:CCS)があります。
安全かつ効率的にCO2を貯留するためには、砂岩などの流体を通しやすく圧入しやすい岩石(貯留層)と、圧入したCO2が再び地表へ漏出しないように保持する役割をはたす泥岩などの緻密な岩石(遮蔽層)が適切に分布している必要があります。これらの組み合わせは、石油・天然ガス鉱床の成立条件と類似した部分も多くあります。そのため、適切な貯留地の選定には当社が石油・天然ガスの探鉱や開発事業で培ってきた地質・物理探査技術や貯留層工学技術を応用することができます。当社ではこれらの技術を駆使し、国内外で貯留候補地の選定や、候補地に対する詳細な技術評価を進めています。
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地下評価技術の開発
当社では、より安全で効率的なCO2地中貯留を実現するため、地質・物理探査・貯留層工学の各分野で国内外の大学や研究機関と共同研究をおこなっています。以下はその一例となります。
地質分野:遮蔽層の性質の解明
圧入したCO2を保持できる遮蔽層が地下に存在することは、安全なCO2地中貯留のために必須の条件になります。しかし、利用できる地下のデータには限りがあるため、地下の遮蔽層に関する評価には不確実性が伴います。そこで当社では、陸上に露出している地層を研究対象として、遮蔽層となる泥岩の性質の空間的な変化を詳細に明らかにする研究をおこなっています(Nifuku et al., 2024)。この研究から得られた成果は、貯留候補地の地下評価の不確実性を減らすために役立つと期待されます。
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物理探査分野:光ファイバーをもちいたモニタリング技術の開発
CO2地中貯留事業の安全な操業のためには、圧入したCO2の広がりなどの地下の状況について継続的に監視(モニタリング)する必要があります。光ファイバーをセンサーとしてもちいる振動検知技術(Distributed Acoustic Sensing:DAS)は、低コストで長期間のデータ計測を可能にする技術として近年注目を集めています。当社は、2016年からDASによる地下モニタリング技術の開発を進めており、近年では、地表に設置した光ファイバーをもちいた地下モニタリング手法の検証などの取り組みをおこなっています(Kono et al., 2024; Naruse et al., 2024)。
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貯留層工学分野:機械学習に基づく代理モデルの開発
貯留候補地の評価や操業計画の最適化には、圧入するCO2の広がりや地下の圧力変化などを予測することが重要になります。この際、圧入対象となる地下深部は情報が限定的なため、多数の仮想ケースを想定して、不確実性の評価をおこなうことが肝要です。一方で、評価にもちいられる大規模数値シミュレーションを多数のケースで実施することは相当量の時間がかかり、現実的に困難であるという課題があります。近年、数値シミュレーションを代替するための機械学習に基づく代理モデルの開発が進んでいます。当社では、先行研究と比べてより詳細に地下状況を再現可能な代理モデルを開発しました(山村ほか, 2024)。この研究成果は当社の貯留ポテンシャル評価に活用されています。
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参考文献
Kono, A., Naruse, R., Masaya, S., Kobayashi, Y., 2024. Subsurface imaging by P-wave reflection seismic survey using surface deployed DAS measurement, onshore Japan. 6th Asia Pacific Meeting on Near Surface Geoscience & Engineering.
Naruse, Y., Kobayashi, Y., 2024. Availability of P-S converted wave imaging for the DAS active seismic reflection data acquired with surface deployed optical fibers. 4th EAGE Workshop on Fiber Optic Sensing for energy Applications.
Nifuku, K., Watanuki, S., Iijima, Y., Kobayashi, Y., Ito, M., 2024. Toward reducing uncertainty in caprock assessment: Insights from an outcrop analogue. 3rd EAGE Conference on Carbon Capture & Storage Potential.
山村慶佑, 早川弘記, 小林佑輝, 2024. CCSプロジェクトの効率的評価を実現するための深層学習ベースの代理モデルとウェブアプリケーションの開発. 石油技術協会令和6年度春季講演会.